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第13章 それぞれの想い 1/7

last update 最終更新日: 2025-05-28 18:00:34

「悠人〈ゆうと〉さんとデート出来るとは……川嶋弥生〈かわしま・やよい〉、感激であります。ビシッ!」

「弥生ちゃん、大袈裟だって」

「いえ、今日は私、川嶋弥生にとって記念すべき一日であります。天も私を祝福してくれるかのような青空。本当、深雪〈みゆき〉さんには感謝です」

「ははっ……」

 * * *

 ゴールデンウイーク初日。

 弥生と二人きりでのデート。

 旅行の後、6人の関係はこれまで以上に深くなり、事あるごとによく集まるようになった。場所は特に決まっていなかったが、自然と悠人の家か深雪の家に集まっていた。

 菜々美〈ななみ〉も小鳥〈ことり〉たちと連絡を取りあうようになり、よくマンションに顔を出すようになっていた。

 深雪は悠人たちの不思議な関係を見守るスタンスで、たまに個人的に相談話を持ちかけられたりしていた。

 その日も深雪の部屋に皆が集まり、鍋パーティーが催されていた。

 そこでゴールデンウイークにどう過ごすかという話題になり、沙耶〈さや〉が悠人にデートを申し込んだことから火花が散らされた。

 悠人へのアピール合戦が始まり、事態を収拾させるべく深雪が出した提案が、一人一日ずつ、交代でデートをするというものだった。悠人の意思はそっちのけで4人がその提案を了承、深雪の作ったくじで順番が決められた。

 4日連続のデートに、最初は異議を唱えていた悠人だったが、考えてみれば最近、彼女たちと個人的にじっくり話をしてなかったと感じ、デートの内容を全て自分が決めるのであれば、との条件で了承することになった。

 * * *

「しかし驚きましたです。まさか悠人さんが、私とのデートに車まで借りてくださるとは」

「車でないと、不便なとこにも行くからね」

「車でないといけないところ……わくわくてんこ盛りです」

「しかし、今日の弥生ちゃんのコスも気合入ってるね。イヴのダークバージョン、もうある

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